ピーィリーリーリーィ…美しい囀りとともに、鮮やかな碧が彼の周りで弧を描く。次いでもう少し丸く明るい
青が胸元に飛び込んできた。指を差し出すと、ちょんと止まって愛嬌のある眼差しを上げる。さらに1羽、2羽…
目に染みるような空の色が、別世界の風とともに部屋を舞う…。
「カワセミは、暖かい地方では一年中見られるが、高緯度地域では冬には南方に移動する。夏の間なら、ロシア
西部からバルト海域、ノルウェー南部でも見ることができる」
小鳥は鮮やかな空色の翼と、対照的な緋色と金の羽毛を見せびらかすように旋回した。煌めく青が目に痛い。
「このオオルリはウスリー河からやってきた。本来は夏鳥だから、そろそろ南方が恋しい頃だな」
ピーィルリー。空をそよぐ風のような声音が今一度室内に溢れた。
「ルリビタキ、これも夏鳥だ。どうもロシアに一年中いてくれる鳥は少数派のようだ」。鳥は彼の指を甘噛みし
て、悪戯っぽく首をかしげた。翼の下に刷いた黄色がちらりとのぞく。
目に染みるような碧をまとった鳥たちは、漆喰塗りの天井に鮮やかな碧いシュプールを描く。外はペテルスブ
ルクの夏…つんと澄ました貴婦人めいた薄く銀を重ねた青空だ。対してこちら、天井は既に鳥たちに染められた
南の空…鳥たちが繁殖のために鳴き交わし、命のままに飛び交う空だ。おい、こんなところにいていいのか、そ
ろそろ南に向かわねばならぬのではないのか、お前たち…と声をかけようとして、さすがに気恥ずかしくなった
…書斎には誰もいないのに。だが、なら、だれに対して私は話していたというのだ? 鳥類学者のような長広舌
を?
眩い陽光が目を射た。体臭さえ感じられそうな濃密な青い空。それに接する紺碧の海…ここはヤルタではない
か? 祖父の持つ別荘…変わり者のイポリート叔父の住む、「鳥屋敷」…軍役に就かず宮廷貴族の社交も拒み、
ふらりと外国やロシア辺境に赴いては別荘に籠っていた叔父。父は彼を嫌っていたようだったが…「よく来たね
リョーニャ」…そうだ、この長広舌はあの叔父だ…。
「これは外国の鳥なんですか?」
「リョーニャ、鳥に国境はないんだよ。好きな時、必要なとき、彼らは海を越えステップを超え、ヒマラヤの峰
さえ超えるんだ」…叔父の手元にはそういえば常に、外国語で書かれた本や手紙があったような気がする…。痩
せて小柄な、彼自身風に乗ってふわりと舞い上がってしまいそうな人だった…。
ピィールルリーィ。オオルリがひときわ高い声を上げた。あ、という間もなく、鳥は少年の手をすり抜けて一
度旋回すると、開いていた窓を抜けて眼下に広がる街へ…さらに黒海へと飛び去った。
「も、申し訳ありません、貴重な鳥を!」
慌てる彼の頭に叔父は軽く手を置いて、少し悲しげな優しい目を向けた。「…仕方がないことだ。鳥には翼があ
るのだから…」…温かい手だ、と思った次の瞬間、熱いものが彼の頭を貫いた。血潮と脳漿が飛び散り、机に突
っ伏した彼、レオニード・ユスーポフ侯爵を朱く彩った。
文:ぼーだら