「夢の続きを」

第1話
                                                                         作:亜琉野(arno)様

                          亜麻色の髪を5月のさわやかな風になびかせ背筋を伸ばして大股でクラウスが歩いていく。         
その姿を眼にとめると、ユリウスは「クラ…」と言いかけた名前を思わず飲み込んでしまった。
(いけない。ここで声をかけたらクラウスはまた僕を避けて行ってしまうかもしれない)
カーニバルの後クラウスがロシアからの亡命者と知ってから、彼は僕と距離を置くようになってしまった。
教室や廊下で出会っても視線を合わせず、僕が言葉をかけようとすると足早に立ち去ってしまうのだ。
僕は彼の秘密を誰にも話すことは絶対ないのに、なぜ彼は僕を避けるのか。
彼と言葉を交わせなくても彼の姿を見るだけでも心躍るのに、それさえも出来ず、美しい春がやって来てもユリ
ウスの心はふさぎがちであった。
そんな状況で巡ってきたこの機会を逃したくないと思い、ユリウスはクラウスの後をつけることにした。

クラウスはヴァイオリン・ケースを持ちながら前を歩く生徒たちをどんどん追い越していく。
一人追い抜いて行くごとに彼との距離は広がっていくので、ユリウスは焦った。
(このままでは見失ってしまう!!多分クラウスは寄宿舎に帰るのだろう。それなら近道をして寄宿舎の近くで
待つしかない!!)
そう決心をすると横道にそれて猛然と走り出した。
寄宿舎の近くまで来て茂みに身を隠し息をととのえていると、こちらに向かってくるクラウスの姿が見えた。
彼は息を潜めているユリウスの横を通り過ぎて寄宿舎に向かうが、中には入らず裏手にある森へと入っていく。
ユリウスは一瞬ためらったが、このまま帰ったら心残りになると思い、急いでクラウスの後を追った。
森に入ってからクラウスの歩調はゆっくりとなったので、木々に身を隠しながらも追いやすくなりホッとするユ
リウス。
木々の葉が木漏れ日に照らされて美しく輝き、まるで童話の世界に迷い込んだ気がする。
その世界にいるのは僕とクラウスだけ、お互い現実の世界での枷から解き放されて生きる世界があるとすれば童
話の世界だけで、それは見果てぬ夢に違いない。

しばらくすると水面がキラキラと反射している池に出るが、クラウスは池を通り越して森の奥へと進んで行く。
15分ほど進むと、クラウスは足を止めケースを叢の上に置きヴァイオリンを取り出した。
ヴァイオリンを構えるクラウスの視線の先には白い可憐なすずらんが見事なほど咲き乱れていた。
その光景のあまりの美しさにユリウスは見とれて声を出しそうになったのを、危うく口を押えて近くの木に身を
隠した。