『とどめの一撃』 マルグリット・ユルスナール著 岩崎力訳 岩波文庫
舞台はロシア革命と内戦で孤立したラトヴィアの城館。主人公の白軍将校エリックを迎えたのは、幼馴染でもあ
る従姉妹のソフィー。彼女はエリックを愛している。しかしエリックはシニカルにそれを拒絶する。彼は、親友
でソフィーの弟であるコンラートに深く心ひかれている。ソフィーは館を去る。エリックは転戦、コンラートは
死に、そして運命的な、というにはあまりに重く悲劇的な再会…。
「少女は腰をひとひねりして、希望もなければ留保も問題もない愛という、ごく狭い舞台に跳び乗ったのだ」。
燐光に縁どられたかのような、痛々しいまでに孤独で、なのに抱きしめようものなら血しぶきが上がりそうに張
りつめたソフィーの存在感は、どこかユリウスに通底する気がするのです。結末は衝撃的です。多分こーなるん
やろな、というのは途中から分かるんですけれど、それでもなお残酷な結果から目が離せない。まるで重いギロ
チンの刃が落ちるのを見守っているような、あっという間のようでもあり、長く息苦しい時間でもあるような中
編です。
現題"Le Coup de Grace"は、「苦しみを長引かせないための一撃」で、まさしく「とどめ」であるのですが、
"Grace"には本来「恩寵」「赦し」の意味もあります。この結末が、誰にとって「苦しみの終わり」であり「神
の恵み」「赦し」だったのか、小説の持つ最高の純度と強度を持つ物語はどこまでも余韻を響かせるのです。
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