「オルフェウスの窓」をもっと楽しもう! 図書紹介コーナーです

Bookshelf: Introducing books those may remind you of the world of "The Window of Orpheus".
Mainly in Japanese.

  フィクション Fiction

『とどめの一撃』 マルグリット・ユルスナール著 岩崎力訳 岩波文庫       
舞台はロシア革命と内戦で孤立したラトヴィアの城館。主人公の白軍将校エリックを迎えたのは、幼馴染でもあ
る従姉妹のソフィー。彼女はエリックを愛している。しかしエリックはシニカルにそれを拒絶する。彼は、親友
でソフィーの弟であるコンラートに深く心ひかれている。ソフィーは館を去る。エリックは転戦、コンラートは
死に、そして運命的な、というにはあまりに重く悲劇的な再会…。
「少女は腰をひとひねりして、希望もなければ留保も問題もない愛という、ごく狭い舞台に跳び乗ったのだ」。
燐光に縁どられたかのような、痛々しいまでに孤独で、なのに抱きしめようものなら血しぶきが上がりそうに張
りつめたソフィーの存在感は、どこかユリウスに通底する気がするのです。結末は衝撃的です。多分こーなるん
やろな、というのは途中から分かるんですけれど、それでもなお残酷な結果から目が離せない。まるで重いギロ
チンの刃が落ちるのを見守っているような、あっという間のようでもあり、長く息苦しい時間でもあるような中
編です。
現題"Le Coup de Grace"は、「苦しみを長引かせないための一撃」で、まさしく「とどめ」であるのですが、 
"Grace"には本来「恩寵」「赦し」の意味もあります。この結末が、誰にとって「苦しみの終わり」であり「神
の恵み」「赦し」だったのか、小説の持つ最高の純度と強度を持つ物語はどこまでも余韻を響かせるのです。




歴史 History

『ロシア革命下 ペトログラードの市民生活』 長谷川毅著 中公新書 1989年 
発行年度が古いので、とうに絶版になったと思っていたのですが、amazonで検索すると古書ではあるが入手可能
みたいなのでご紹介することにしました。                               
            「ペトログラード」というだけで、「ロシア革命の時代」を連想する。オル窓ではわかりやすさ優先で「ペテル
スブルク」表記にしたという断り書きが入っていましたね。第一次世界大戦開戦でドイツ語っぽい響きが嫌われ
てロシア風に改名、1924年レーニンの死とともにその名を記念して「レニングラード」となった、その間のほん
の10年ほどの呼称です。この本では、2月革命から10月革命を経て18年5月までの、つまり市民生活が一番不安定
だった時期を描出しているのですが、面白いのは「低俗新聞」の抜粋記事を並べる形でこの時代を再構成してい
ること。今でいうなら「夕刊●ジ」とか「サンケ〇ス〇ーツ」みたいな感じ? サモスードと呼ばれるリンチや
兵士、民警の暴力のすさまじさの一方、どさくさ紛れに起こる犯罪の多種多様さには、単純に誰が被害者とはい
えない人間の難しさも感じさせられます。被害金額の大きさに唖然とするセレブの犯罪、横行する偽セレブ、時
に挟まれる政治記事にも独自の個性がある。「8月13日 女中労働組合の大会(中略)1日8時間の労働時間、1か
月2日の休日(ブラックだったんや…)」なんてのを見ると、アデール夫人のトコのネーリがプラカード持って
デモしてるとことか想像してしまう。無論著者の取捨選択があるわけですが、かなり「一次資料を読んでいる」
気分にさせてくれます。   



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